「食」がセルフメディケーションの中核となるまで…

放っておいても「カラダ」はついてくると思っていた若い頃

出版界で仕事を始めたのが25歳のとき。自分の思いを表現できる方法を探していて、この世界を選んだ。書くことが好きだったからだ。好きなことをやる以上、全力でやる!いや、好きなことをやっているから、自ずと全力疾走になる。自負があるから、中途半端じゃ気がすまない。そんな感じで編集プロダクションで仕事をしていたが、いま振り返っても、それは凄まじいものだった。
夜中の2時頃、仕事が一段落すると、それから飲みに行く。朝まで飲んで、始発で帰り、数時間寝たら、仕事に出る、というのはいつものパターン。ときには、なりゆきで1週間ほど泊まり込んでしまい、コンビニに着替えを買いに行くということもあった。

キューバの自立を支えた 有機農法「ミミズ農法」の現地取材

キューバの自立を支えた
有機農法「ミミズ農法」
の現地取材

そう、コンビニといえば、袋の中身はいつもインスタント食品にスナック菓子、菓子パンにおにぎり。家で料理をすることは稀で、外食が当たり前。お気に入りは焼肉屋——こんな日々だったから、世の中に風邪が流行ると、必ずいただいていた。鼻水、咳、熱とたいていフルコースで、ひどい時は1ヶ月近く咳き込んでいた。あるとき、あまりにひどい咳で息をするのもままならず、これはマズイと病院に行ったが、明確な診断も出ず、よって治療の見込みも立たないような宙ぶらりんな状況に置かれたとき、ふと思った。「そうだ、食事を変えよう!」

自炊する“おいしい生活”のはじまり

カラダ解体講座

NPO主催「カラダ解体講座」では
個別の健康相談会も行った

仕事の性質上、生活のパターンをまともにするのは難しかったが、自分で食事を作るための意識と時間を持つことはできた。ちゃんと食べよう、と考えたとき、まず食品の安全性が気になった。加工における添加物のこと、生産における化学肥料や農薬のこと、遺伝子組み換えのこと。当時はそうした食材を近所で簡単に手に入れられる状況ではなかった。そこでいろいろ調べているうちに無農薬や有機野菜、非遺伝子組み換えなどを掲げている食材宅配業者をいくつか見つけ、そのうちの一つと契約し、自炊する“おいしい生活”が始まった。これは私にとって一つの大きな転換点だった。
もちろん最初は面倒だった。苦手な食材もあるし、料理に失敗することもある。仕事に追われ時間がない時は、もうやめようかと思った。でも続けられたのは、何となく体が強くなった気がしたからだ。気がつけば風邪をひかなくなっていた。すると気になり出したのが食品の栄養価のこと、機能性のこと、体への影響についてだ。良いものを選んで食べることが、いったい体にどんな影響を及ぼすのか。

そんなとき、世の中にはサプリメントという新分野が出てきて、私のところにもサプリメント関連の仕事が入ってきた。あまり興味はなかったが、世の中の新しい動きはキャッチしておきたいと思い、受けた仕事だった。
2000年の節目がもうすぐという頃だった。書店に並ぶ本を読み飛ばし、たくさんのサプリメントメーカーを取材した。しかし取材するうちに、だんだん疑念が生じてきた。どのメーカーや販売者も、異口同音に「子供からお年寄りまで、風邪からガンまで治ります」と言うのだ。そんな魔法のようなモノがあったら、是非あやかりたい。

NPO立ち上げの動機

NPOの書籍「サプリメント健康バイブル」

NPOの書籍
「サプリメント健康バイブル」

ある日の取材先で“万能薬”というその商品を購入して、早速、飲んでみた。すると翌日、なんと私の顔は腫れ上がり、嘔吐と下痢に襲われた。おまけに熱まで出てきた。ほかに原因は考えられないので調べてみると、そのサプリメント素材は、製造段階の抽出加工処理によっては溶媒が残ったり、アレルギー要因もあるというのだ。しかしそんな話は、2時間の取材の中でも聞いていない。私はいきなり“アンチ・サプリメント派”となり、世の中の怪しいサプリメントをあぶりだそうと考えた。
私のような思いをした人はきっとたくさんいるに違いない。これは情報がほとんど売り手側から出ているからで、売るために都合のいいことばかり聞かされる。そうではなくて、買い手側に立った情報発信が必要じゃないか、と奮起した。そこで、中立的な立場からの知識、情報をまとめたいと書籍の出版を企画したが、本を出すからには、その情報に責任を持てる法人格が必要だろうと思い、NPO日本サプリメント協会を作った。NPO法ができてまだ1年余りだった。

勘違いされやすいサプリメントの利用

当時、「サプリメント」という言葉は、一種の流行語だったが、由来は英語の「ダイエタリー・サプリメント」(Dietary Supplement)を略したもの。このsupplementは、「補充」の意味で、つまりダイエタリー・サプリメントというのは、日常の食事で不足する栄養分を補うもの、ということだ。「日常の食事で不足する栄養分」というのは、たとえばビタミンやミネラル、乳酸菌やプロテイン(タンパク質)、ファイバー(食物繊維)、魚油の成分のEPAやDHA、コラーゲンなどなど。それらを抽出・濃縮してつくられたサプリメントを利用して、栄養バランスを整えよう、ということだ。
しかし実際は、「痩せるためのサプリ」とか、「疲れ目に効くサプリ」「むくみを解消するサプリ」などの謳い文句が並んだから、勘違いする利用者が増えて、本来のサプリメントの意義を見失った。

一方、食経験のないものを原料とするサプリメントもある。おもにハーブ系だが、イチョウ葉やノコギリヤシ、霊芝、キチン・キトサン(カニの甲羅の繊維)などは、食卓に並ぶ食材ではない。これらは薬効を期待して民間療法などで古くから利用されているものが多い。
「サプリメント」とひと括りにできないこうした作用の違いを理解してもらうために、「サプリメント・ツリー」を作成した。このツリーは、あちこちの講演会場で随分、活躍してくれた。

サプリメント指導士養成講座風景

「サプリメント指導士養成講座」
の講座風景

あれから14年、いまや耳慣れた「NPO」だが、私は3年前にNPOを店仕舞いした。設立の目的は達成できず、志半ばだった。生活者のための情報を生活者に伝えることは、実はとても難しい。それなりの知恵と労力と資金がいる。多くのNPOが高い志と信念を持ってスタートしても、途中で息切れしてしまうのは、社会貢献と費用との折り合いをつける難しさがあるような気がする。
とはいえ、10年にわたる活動の中で得たものはあるし、小さな成果もないわけではない。小学館から出した3冊の書籍は、混沌としていたサプリメントの情報を俯瞰して整理する試みを形にしたエポック・メイキングなものだった。出版と同時にウェブに掲載した「サプリメント・データベース」は日本初で、すぐに国会図書館からリンクの申し入れがあった。

未病をいやす食のチカラ

農医連携ユニットのシンポジウム「食で守る、食で治す」

農医連携ユニットのシンポジウム
「食で守る、食で治す」

そして今、食べものが持つ健康への効果が、ようやく法的に認められようとしている。つまり、食べものに在るさまざまな成分の機能性を、生活者に向けて伝えるための「表示」を認めよう、ということが閣議決定されて動き始めた。
そこで昨年、「農医連携ユニット」と銘打ったチームを結成した。同志として10年にわたりNPO活動を支えてくださった先生方と、もう一度、理想に近づくための挑戦をしようと。昨年12月には、第1回の農医連携ユニットのシンポジウムを開催した。テーマは「食で守る、食で治す」。そして今年度は「未病をいやす食の力」というメッセージを掲げて、医療の現場に食をつなごうと考えている。
つまり、私たちの体は、脂質、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素と水分で構成されているのだから、これらをバランスよく体内に補充することで、心身の健康を保ちましょう、というメッセージだ。
医療は、これまで病気を薬で解決するために研究されてきた。しかし、病気になる前に、食の機能で解決できる「未病」があるということを研究すれば、健康寿命は長くなり、医療費は低くなるだろう。こうして「食」がセルフメディケーションの中核となるまで、私たちユニットは活動を続けたいと思う。

日本サプリメント協会の活動紹介はこちら

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