山野善正氏『塩の食文化』

  • 2016/11/22
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山野善正氏『塩の食文化』

協会では、医師や専門家による鋭い視点で捉えた、健康と食に関する様々なコラムを掲載しています。今回は、一般社団法人おいしさの科学研究所理事長の山野善正氏に、「塩の食文化」について語っていただきました。

山野 善正Yoshimasa Yamano

山野善正一般社団法人おいしさの科学研究所 理事長
滋賀県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業、農学博士。
東洋製缶東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て、香川大学農学部食品学科講師、助教授、教授。評議員、学生部長、農学部長。退職後2005年より現職。この間、アメリカ、オランダ、オーストラリアの大学で研究。専門は食品物理学。フィルム包装食品の加熱殺菌、食品コロイド、エマルション、テクスチャーについて研究。テクスチャーの研究で、食品科学工学会賞受賞。食品企業、化粧品企業等の顧問、種々の公的委員を歴任。また、民間時代レトルトパウチ第1号“崎陽軒のパック入りシュウマイ”の開発を担当。著編書にコロイド、テクスチャー関連専門書の他に、「おいしさの科学(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学事典(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学がよーくわかる本」(秀和システム)、「うどん王国さぬきのおいしさ」(おいしさの科学研究所)等がある。


「塩の食文化」

塩は体液の電解質濃度を一定に保ったり、消化や心臓の働きに役立ったりする人間の生理的活動にとって重要な役割を持っている。人間が好ましいと感じる食塩の濃度は、吸い物、ゆで物、生野菜など日本料理の中で単独で食べるものは約1%、ご飯のおかずとして食べる煮物や魚などは約2%くらいがおいしいと感じるが、生物は元来海から生まれたので、人間も塩なしには生きられないのは当然というわけである。現在の海水の塩分濃度は約3%であり、今でも徐々に濃縮されつつあるが、原始時代はより低かったと考えられている。その伝でいくと、人間の体液の塩分濃度は約1%で、血液やリンパ液でも1%である。白飯には塩はほとんど含まれていないので、濃度が約2%の魚や煮物などを交互にまたは一緒に食べると、約1%になり、これは体液の濃度と同じだといえる。

古代から塩は人間にとって大切なものと認識され、たとえば古代ギリシャでは、奴隷を買うのに体重と同じ量の塩を充てたし、また、貨幣(salarium argentum)として用いられた。古代ローマでは、塩は兵士の給料として用いられたとされる。確かに、ラテン語のsal(サール)は サラリーの語源であることがわかる。ちなみに、sal(スペイン語)、sel(フランス語)、sale(イタリア語)、Salz(ドイツ語)、salt(英語)はその派生語である。いわゆる中東やヨーロッパでは、岩塩が主要な材料であったと思われる。

一方、わが国では万葉時代には、潮の引いた海岸から藻を採取しそれに海水を注いで塩分を含ませ、これを焼いて水分を蒸発させて濃縮した後、水に溶かした上澄み液を煮詰めて製塩した。これを藻塩焼きといい、現在でも商品として販売されている。昔から、塩は大変貴重な食材であり、『古事記』や『日本書紀』に塩を司る神様が出てくる。また、紫式部は、近江の琵琶湖の北にある塩津山の歩きづらさと塩のから味をかけて、

知りぬらむ 往来(ゆきき)に慣らす 塩津山
世に経(ふ)る道は からきものとぞ

と詠っている。
戦国時代に塩が給料代わりに使われたこともあり、日本の武士道的「言い」である「敵に塩を送る」(塩が不足して困っている敵に大切な塩を送って助ける)という言葉にその重要性がうかがえる。
実際、山梨県や長野県には日本海から運ばれた塩の道や塩のつく地名が残っている。ちなみに終点の地名は塩尻である。

ところで、明治38年(1905)の専売制実施により製塩業は国家的収益に貢献し、労働生産性は高まった(塩専売制は平成9年に廃止)。現在筆者が住んでいる香川県が全国一の生産量を誇り、それは、当時の製塩法である塩田法に好影響を与える条件がそろっていたことによる。すなわち、晴天の日が多い、降雨量が少ない、淡路島より西は外界の侵撃を受けにくい、内海にそそぐ大河が少ないので比較的塩分濃度が高い、いつも微風が吹いていて乾燥させやすい、などが理由であった。ちなみに現在は塩田がなくなりイオン交換法により製塩されている。

(大塚薬報No.720より転載)

山野 善正

山野 善正一般社団法人おいしさの科学研究所 理事長

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滋賀県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業、農学博士。
東洋製缶東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て、香川大学農学部食品学科講師、助教授、教授。評議員、学生部長、農学部長。退職後2005年より現職。

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