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取材コラム 第12回:山本万里氏
- 2021/2/4
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「今の自分の体調に合った食事を、科学的に選べる未来」
農研機構 食品研究部門 ヘルスケア創出研究統括監 山本万里氏に聞く
食料、農業、農村に関する研究開発を行う日本最大の機関「農研機構」。ここで、ヘルスケア創出研究統括監として、食によるヘルスケア産業創出に関する研究戦略の立案や統括を行っているのが、農学博士の山本万里氏だ。今、世界市場が食品の健康機能性に注目する中、どのような研究が進められているのか、その現状や今後の展望についてお話を伺った。
「食品の健康機能といえば、これまで含有成分を特定した上で、その成分の研究でした。農産物そのもののエビデンスは、ほとんどなかったのです」
ならば、丸ごと食べてどうなるかを研究しようということで始まったのが、2014年からの「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」だ。
「日本中から、機能性が期待できる変わり種の農産物を集めて、BMI値がやや高い”チョイ悪”の被験者などに、それぞれ12週間食べてもらうというヒト介入試験を行いました。そんな中で顕著な作用が見られたのが大麦でしたね」
β-グルカンがリッチな大麦で、内臓脂肪面積を下げる、食後血糖の上昇を抑える、といった作用が見られたのだ。また、β-コングリシニンというたんぱく質が含まれた「ななほまれ」という大豆で、食後の中性脂肪の上昇を抑え、長期摂取で血中の中性脂肪が減少するということがわかった。
「ただ、私たちは普段、そうした食品を単品で食べるわけではないので、1食分としての食品の効果を探ってみたいと思ったのです」
たとえば、地中海食の数千人規模のRCT(ランダム化比較試験)や、マインド食(地中海食+DASH食)の認知症予防の研究があるが、こうした食事スタイルの日本版を模索すべく、困難が想定される研究に取り組んだ。
「まず栄養バランスや機能性成分摂取量のコンセプトを決めて、それに見合う食材の組み合わせを20メニュー考案しお弁当にしました。これを60日間、平日のお昼に食べるというRCTを行ったのです。機能性成分での効果を証明するために、カロリーは減らさず700kcalです」
結果は、見事に内臓脂肪を減らした。これを「NARO Style®弁当の12週間チャレンジ」と命名し、農水省との取り組みも発表した。
「ランチを1食変えることで健康になれるんだ、ということに気づいてもらうことが大切なんです。これが、自分のセルフケアを食事から考える、という行動のきっかけになるんじゃないかと」
山本氏は現在、この「NARO Style®弁当」で、軽度不調に対応する「不調別メニュー」の構築に取り組んでいる。不調を事前にセンシングし、それに適した機能性食品を選択することで、健康なバイオリズムに戻すという、食によるセルフケアプランだ。
「目指すのは、19.3兆円ある生産性の損失を軽減することです」
ジャーナリスト 後藤典子