取材コラム 第30回:江崎禎英氏

江崎禎英氏

「高齢者の幸福を実現する施策で、社会の風景を変える」
社会政策課題研究所所長 江崎禎英氏に聞く

官僚として32年間、霞が関で仕事をしてきた江崎氏。「おかしい」と思った制度や法律を改革し、いくつもの功績を残してきたが、令和2年、審議官としての立場を退き、翌年の岐阜県知事選に出馬した。官僚時代に幕を引き、地方政治に新たな一歩を踏み出したのはなぜか。知事選敗戦を経て、次のチャレンジに向けて準備をしている江崎氏の今の思いを伺った。


「今、社会が大きく変わらなければいけないタイミングにきています。山積する社会の課題に対し、まず現場を変えないといけないと。現場を変えることで、制度を直していくという両面のアプローチを行っていこうと考えています」

官僚時代の信条は、「実態に合わない制度や法律は、変えれば良い」だった。1998年、大蔵省にとってはまさに青天の霹靂とも言える「外国為替取引の許可制度廃止」を成立させたのは、「外為手数料の固定化はおかしくないか?」という江崎氏の提言から始まった。またベンチャー企業の株式公開を可能にしたのは、1995年の「店頭市場改革」だが、氏は証券市場の従来の掟を破って、新しい資金調達の途を開いた。

国内だけではない。対外国においても、その信条は曲げない。バブル時代に諸外国から不公正貿易だと”日本叩き”の総攻撃を受けていた時、海外の不公正貿易の情報を徹底的に収集し報告書にまとめた。弱腰だった日本の貿易は、これ以降、対等な扱いを受けるようになった。

「おかしいと思ったことを実際の行動に移すか、仕方ないと言って見逃すか、その差はほんのわずかです。今の転換期にあって、私たちが何を選ぶか、どう行動するかで未来は大きく変わるでしょう」

江崎氏はまた健康経営優良法人「ホワイト500」の立役者でもある。企業が従業員の健康を優先して考えるような制度に仕立てた。健康問題は、いまや日本の財政を揺るがす最大の病巣だ。社会保障費は、国家予算の50%を超えている。

「喫緊の課題は、国民皆保険制度の破綻をいかに回避できるか、ということ。60~70歳が寿命だった時代に作られた制度だから、100歳まで生きる時代になったら回らなくなるのは当然。回らないから医療が必要な人を削るのではなく、必要でない人を増やせばいいのです」

いみじくも新型コロナがそれを証明してくれたという。令和2年の死亡者数や医療費の減少は、「予防によって医療費は減らない」という世界の常識にチャレンジできると江崎氏は説く。
「また高齢者の医療と介護は手厚くなりましたが、はたして彼らの幸福度は高まったでしょうか?」と江崎氏は問いかける。「莫大な財源を消費する”高齢化”を問題視するのではなく、視点を変えれば、高齢者は社会と自分のために時間を使える世代であり、社会変革の重要なキーになり得ます」

江崎氏は、彼らの幸福を実現する施策によって、新たな社会の風景を創り出そうとしている。

ジャーナリスト 後藤典子

江崎氏の取材動画はこちら

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