取材コラム 第41回:丁宗鐡氏

丁宗鐡氏

「漢方的『中庸』こそ、健康の秘訣」
日本薬科大学学長、百済診療所院長 丁宗鐡氏に聞く

医学部の学生時代に、先輩に勧誘されて入ったサークルが「東洋医学研究会」。当時の医学部では異端視されていた漢方との出会いだった。西洋医学とは異なる薬の考え方に、新鮮な興味を抱いたという。その後、漢方の大家、石原明先生や大塚恭男先生に師事し、漢方薬の薬理作用を研究する。現在も漢方医療の専門医として活躍する丁氏に、漢方の考え方についてお話を伺った。


「漢方では、患者さんを診るとき、病気を診るんではなく、病人を診るという言い方をします。説明しづらいんですが、その人の人生を診る、病人とその背景を診るんです」

初診の患者さんを診るとき、体格、声の大きさや張り、顔色、目の輝き、話し方や着ている服の色などから総合的に判断するという丁先生。

一般的に、漢方では体質を大きく「実証、中庸、虚証」の3つに分類する。割合でいうと、2:6:2で、多くは中庸だという。「ところが、世の中の多くの健康法、とくに“○○式”と銘打っているようなものは、たいていが実証向けだから、体質に合わないことが多いんです。健康法であれ、食べ物であれ、環境であれ、あらゆるものに対する反応性で、その人の体質を判断します」

またがん患者の9割が「実証」というデータがある。「実証の人は体力や気力もあり、つい頑張ってしまう。その頑張りが無理を強いて、がんになることもあります。また最近の若者に増えている炎症性腸疾患も、休憩を取らない、ONとOFFがない生活スタイルが原因だと考えられています。両極へ偏らず、中庸を保ち、バランスを取ることが大切なのです」

こうした健康に対する意識は、日本の保険制度によっても変容してきたという。「かつては病気になると高額の費用が掛かるので、健康に気を配ってきました。今のように二日酔いでも受診するというような気軽さは無かったですね。さらに江戸時代には病気になることは恐ろしいことだったので「摂養」を大事にしていました。日常の摂生、養生、保養をあわせた考え方です。自己責任で予防し、未病のうちに治すという心構えです。今の医療費の状況を考えれば、あらためてこうした意識が必要ですね」

「未病」という言葉は「予防」とは意味が違う。今は一見、健康そうだが、病気に向かっているという動的なベクトルがはたらいている状態を「未病」という。これは漢方が育んできた言葉だそうだ。

また漢方薬には「上品(じょうぼん)・中品・下品」という3つのランクがあり、西洋薬はたいていが下品だとされる。「薬理作用の強い、効く薬は副作用もあるので下品なのです。上品というのは、作用が弱くても副作用のない薬で、ずっと飲んでいても大丈夫。甚だしくは、薬理作用の無い上品もあります。そのような薬を、西洋医学的に分析しようとしても、何が良いのか分からないでしょうね」

漢方薬を「未病」対策として活用することで、自分らしい人生を演出できるかもしれない。

ジャーナリスト 後藤典子

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