「『農林水産物の機能性』について』大谷敏郎氏

大谷敏郎

日本サプリメント協会では、今、最も注目したい人をインタビュー形式でご紹介していきます。
今回は、食品総合研究所の大谷敏郎所長に「農林水産物の機能性」についてお話を伺いました。

大谷敏郎

「農林水産物の機能性」について

大谷敏郎氏

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 理事
食品総合研究所 所長


■食品には3つの機能があることを忘れないで

後藤:今日は、農林水産省傘下で唯一の食品の研究機関として、食に関連する科学と技術について幅広い研究を行っている食品総合研究所の大谷敏郎所長にお話を伺います。
昨年スタートした「機能性表示食品」には、みかんやもやしなどの生鮮食品もみられますね。これまで何気なく食べてきたみかんに「β-クリプトキサンチン」という成分があって、これが「骨の健康に役立つ」と言われると、面白い!という興味とともに、骨なの?と意外な印象を受けました。

大谷:たしかに、みかんが骨に良い、というのは意外な印象を持たれるでしょうね。β-クリプトキサンチンは日本のウンシュウミカンに多く含まれていることが特徴で、オレンジなどには含まれていません。そこで、ウンシュウミカンから分離したβ-クリプトキサンチンを使ったヒト介入試験をしたところ、骨代謝マーカーでの良い効果が確認され、機能性の論文としてまとめられました。この論文の結果を使って、二段論法で「骨の健康に・・・」となったわけです。ただ、こうした機能性は、みかんの持つ機能性の一部に過ぎないということを忘れてはいけませんね。

後藤:なるほど、みかんがすべてβ-クリプトキサンチンで出来ているわけじゃないですものね。

大谷:ええ、食品には3つの機能があることをご存知ですか?「栄養」が1次機能、「おいしさ」が2次機能、そして「生体調節」が3次機能。このβ-クリプトキサンチンなどによる体への機能性は3次機能ですが、食品は、まず1次の栄養機能、つまり生きていくうえで不可欠な栄養素―炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル―を摂取するためにあり、さらに、より良い機能を付加するために3次機能があることを、見落としてはいけませんね。

後藤:なるほど、1次機能を忘れて、3次機能にばかり目が行くのは、食品のあり方をゆがめることになりかねないということですか。ここが3次機能の成分に特化したサプリメントとは異なる点ですね。そうしてみると、2次機能の「おいしさ」もまた、サプリメントにはない機能ですが。

大谷:「おいしさ」については最近、いろいろと研究が進み、味やにおいなどの感覚が健康に与える影響を最新の分析技術や解析法で解明しようという試みもあります。
また、当研究所では、「おいしさ」を伝える言葉の大切さに着目し、「おいしさ」の重要な要素である歯ごたえや噛み応えについて、「食品・農産物評価のためのテクスチャー用語体系」という研究をまとめています。日本にはテクスチャーを表す言葉がじつにたくさんあって、この研究では445語のテクスチャー用語が対象とする食品935品目をカバーしていることを明らかにしています。

後藤:「おいしい」と感じさせることは、食べ物の特権ですものね!味覚だけでなく、香りも、色彩も、温度も、音も、雰囲気までもが、食べる人の心身に何かをもたらすような気がします。

大谷:ええ、そうした基本的な機能の上に、体の調節機能としての3次機能がいろいろと見出されているのです。当研究所でも、たとえばタマネギに含まれる3次機能性成分のケルセチンの分析法を確立して、ヒトでの効果を研究したり、小麦の全粒粉のパンを用いたヒト試験で抗メタボ効果を認めたり、といった研究を、大学や関連機関とも連携しながら実施しています。

■食品の機能性研究の課題は何か?

後藤:そうした科学的な裏付けがあって、次第に食べ物の3次機能がわかってくるのでしょうが、実際にヒトへの健康効果を見ようとすると、クスリと違ってヒト試験が難しい面もあるのではないでしょうか?

大谷:たしかに、食品を用いたヒト試験には課題もあります。食品ですからその成分にはバラつきがありますし、また被験者にも個体差があって、そうしたバラつきの幅をどこまで小さくすれば妥当性があるかを検証しながら見ていかなければなりません。また、食品のために効果がマイルドである、対照被験食を作りにくいという難しさがあります。
現在行われているヒト試験のもう一つの大きな課題は、研究費用がかさむことです。食品の種類や成分が膨大で、1品ずつ、あるいは1成分ごとにこうした研究を行っていくことは、膨大な費用がかかるということです。もちろん、時間もかかります。そこをどう解決するか、ですね。
最近では、ゲノム解析や網羅的解析技術による個別の健康情報に基づいて、食品の有効性を検証していく方法も考えられていますので、今後、いろいろな可能性はあるでしょう。

後藤:科学的エビデンスの必要性と、費用対効果のジレンマですね。実際、私たち消費者が、日常食べる食品にどのような健康効果の保証を求めていくのか、ということを、この制度を機に考えてみる必要があるような気がします。とくに3次機能については、特定の条件下でのエビデンスが論文で発表されたというと、特定の条件は無視されて、その機能性ばかりがクローズアップされてしまうきらいがあるのではないかと。

大谷:そうですね、いわゆる“フードファディズム”にならないよう、情報提供には十分な配慮をすべきだと考えます。消費者のヘルスリテラシーの向上に寄与するような教育も必要でしょうね。
私の所属する農研機構では今後、5か年計画で「栄養・健康機能性」の研究を始めます。その中には、たとえば調理条件によってどれだけ機能性成分が残るのか、複合食品の機能性がどのように現れてくるのかといった、これまで機能性と関連して研究が行われてこなかった「調理法」などについての研究なども含まれます。食品をどのように調理すれば、より効率よく栄養価を高めることができるか、といったようなことを科学的に研究していくのです。また、今までのような病気と健康の境界域の方ではなく、健康な方を対象とした機能性についても取り組んでいく予定です。

後藤:そうした研究が、キッチンや食卓で活かされるようになれば、健康寿命はもっと高くなり、医療費は今よりずっと低くなるでしょうね。研究成果が公開されれば、その情報をしっかり生活者の手元に届けられるよう、微力ながら力を尽くしたいと思います!今日はありがとうございました。

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