取材コラム 第7回:小田口浩氏

「風邪には葛根湯、から始まった漢方への開眼」
北里大学東洋医学総合研究所所長 小田口浩氏に聞く

心臓血管外科医として10年のキャリアを積んだ医師が、ある転機を経て、やがて出会った漢方の世界。自身が体感した漢方の切れ味に感動し、それ以来、漢方の道を究めることになった。そして今、日本の漢方医療の最高峰である北里大学東洋医学総合研究所の所長として「漢方を通じて笑顔あふれる社会を実現する」という思いを携えて東洋医学の普及に取り組む小田口氏に、漢方の真髄を伺った。


「私が最初に漢方を処方したのは、風邪に葛根湯でした」
多剤を服用する高齢の患者に、さらに数種類の風邪薬を追加することを回避しようと、思いついた対応策が漢方だった。しかし、そんな私を「葛根湯医者」と呼んだのが、調剤薬局の薬剤師だ。「風邪だからと誰にでも葛根湯ではない。人によって、状態によって、使う漢方は違うんですよ」と叱られた。

「心臓外科では目に見えるものをロジカルに修正していく医療だったが、漢方は理屈じゃなくて古来の経験の下に治療していくという、そのことに最初は違和感がありましたね」
その違和感が吹っ飛んだのが、自身がインフルエンザに罹ったときだ。「麻黄湯」の一服が見事に効いて、一晩で回復したばかりか、解熱剤などを使った時の後味の悪さがない。すこぶる気分の良い回復を体感し、漢方のすごさを認識したという。

「現代医学は病気の原因を見つけて、その原因を排除すべく明確なターゲットを決めて、細分化された専門領域で治療します。原因を一つ一つ潰していけば治るという論理です。ただ人の体というのは、大きなシステムで動いているので、一部で起きたことが外に影響を及ぼすこともあれば、その一部を治療することで他とのバランスが悪くなることもあるのです」
つまり漢方は、精神面も含めた心身のバランスを整える医療だという。

「もともと人間はだれでも、そのバランスを自分で取ることができるのですが、うまく取れなくなってしまうと何らかの不調を自覚するようになります。そんなときに自分でバランスを取り戻せるように助けてくれるのが漢方だと考えています」

ただ、バランスの良し悪しは数値化できるものではなく、現代医学が求めるエビデンスを提供するのは難しい。あくまでも先人からの伝統的なノウハウをベースに、バランスを診ることになる。現代医学が未だ評価できないのはこのためだ。小田口氏は、こう応えた。

「人の体は小宇宙といわれるほど奥深いものです。すべてをエビデンスで見分けることはできないでしょう。そして現代医学のように標準化できないのは、漢方が個々の違いを見極める医療だからです」

ジャーナリスト 後藤典子

小田口氏の取材動画はこちら

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