取材コラム 第37回:能勢充彦氏

能勢充彦氏

「漢方薬の作用機序の研究によって、医療の可能性は拓くか?」
名城大学 薬学部教授 能勢充彦氏に聞く

漢方は、古代中国で生まれた経験医学だが、5〜6世紀に日本に導入された後、日本で独自の発展を遂げ、江戸時代には現在の漢方の基礎ができたと言われている。古来、経験と臨床を積み重ねてきた伝統医学だが、現代科学の視点からみると、複数の生薬を配合する混合物であるために、その有用性に関する科学的根拠の解明が難しく、西洋医学の立場からは評価されにくい。ここに風穴を開けようと挑戦している薬学部の能勢教授に、漢方の新たな可能性についてお話を伺った。


「西洋医薬が効かない患者に、漢方薬が奏効する場合があるということ、またある患者には有効なのに、別の患者には有効ではないという非常に不思議なものだという印象を持ったのが、漢方に興味を抱いたきっかけです」

学生時代、漢方を学ぶ機会は少なく、生薬学の講義の中でわずかに3回ほどの漢方医学の講義を受けただけだが、「病気と自然の産物の関係性に対する人類の深い知恵に感服するとともに、それを客観的に解明することに魅力を感じた。まだよくわからないその有効性を解き明かせば、もっと役に立つものになるのではないか」と、生薬学研究室に入ったという。

現在、大学では「漢方薬の科学的解析」を研究テーマにしている。「西洋医薬品は、病気の原因を分析化学的に突き止めて、たとえば酵素であればその阻害剤を利用するとか、最近では分子標的薬のようにピンポイントで作用するようになっているが、漢方薬ではこうした科学的モノサシは通用せず、新たな分析法を探求することになります」

2018年には、「代表的な甘草配合漢方処方25種におけるグリチルリチン酸含量の比較」で日本生薬学会論文賞を受賞した。一般的に、漢方薬は副作用のリスクが低いとされているが、甘草や麻黄など注意が必要な生薬もある。

「現在使われている漢方薬の7割に甘草が入っているので、取り過ぎるリスクがあります。たとえばこむら返りによく効くとされる芍薬甘草湯では、甘草が医療用で6g、一般医薬品でも3g入っています。甘草は2.5g以上入っていれば、特段の注意が必要です。また風邪などの時に使う葛根湯には、麻黄も甘草も入っているので、気をつけなければいけない処方の一つです」

日本漢方生薬製剤協会のサイトには、漢方薬を安全に使うために「服用前のセルフチェック」として39処方の「確認書」や、症状に応じた漢方薬を選べる「鑑別シート」などが、大変わかりやすく掲示されている。「漢方セルフメディケーション」というバナーをクリックすると閲覧できるので、利用したい。

「人によって処方が異なる個別化の漢方ではありますが、やはり客観的な根拠が必要だと考えています。現在、糖尿病の合併症である末梢神経障害に対する漢方薬の作用についても実験動物を活用して研究を進めていますが、こうした西洋薬の及ばないものについて、漢方薬の作用を検証することには大きな意義があるのではないでしょうか」

ジャーナリスト 後藤典子

能勢氏の取材動画はこちら

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