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山野善正氏『古くて新しい食育』
- 2017/6/23
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協会では、医師や専門家による鋭い視点で捉えた、健康と食に関する様々なコラムを掲載しています。今回は、一般社団法人おいしさの科学研究所理事長の山野善正氏に、「古くて新しい食育」について語っていただきました。
山野 善正Yoshimasa Yamano
一般社団法人おいしさの科学研究所 理事長
滋賀県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業、農学博士。
東洋製缶東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て、香川大学農学部食品学科講師、助教授、教授。評議員、学生部長、農学部長。退職後2005年より現職。この間、アメリカ、オランダ、オーストラリアの大学で研究。専門は食品物理学。フィルム包装食品の加熱殺菌、食品コロイド、エマルション、テクスチャーについて研究。テクスチャーの研究で、食品科学工学会賞受賞。食品企業、化粧品企業等の顧問、種々の公的委員を歴任。また、民間時代レトルトパウチ第1号“崎陽軒のパック入りシュウマイ”の開発を担当。著編書にコロイド、テクスチャー関連専門書の他に、「おいしさの科学(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学事典(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学がよーくわかる本」(秀和システム)、「うどん王国さぬきのおいしさ」(おいしさの科学研究所)等がある。
「古くて新しい食育」
筆者は食育基本法が平成17年(2005)6月に制定される前の平成16年3月に、農林水産省中国四国農政局主幹で召集された中国四国地域食育推進協議会に座長としてかかわった。そこでは、①小・中学生へのアプローチ法、②一般消費者へのアプローチ法、③農業・生産者からのアプローチ法、④その他(未就学児や家庭での取り組み法)がテーマとして議論された。
委員は中四国9県から、消費者、生産者、食品産業、栄養士、行政・教育関係者などで構成された。約2年間充実した議論がなされ、筆者には大変勉強になった。この委員会の後、学校法人穴吹学園高松校と協力して、食育プランナーの養成講座を開設し、さらに高松大学で「食育論」を担当した。それらの経験を踏まえ、本題について考えを述べたい。
食育基本法の中での「食育」の位置付けは、①生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの、②様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること、となっている。その背景は以下のとおりである。
①「食」を大切にする心の欠如
②栄養バランスの偏った食事や不規則な食事の増加
③肥満や生活習慣病(がん、糖尿病など)の増加
④過度の痩身志向
⑤「食」の安全上の問題の発生
⑥「食」の海外への依存
⑦伝統ある食文化の喪失
この中で、①と⑦は精神的、文化的要因としてとらえられる問題である。たとえば、①と関連して、食事の前に「いただきます」、食後に「ごちそうさま」を言うこと、また⑦との関連は、正月など節季ごとの祝い事の食事・食習慣、日本らしい料理・食材の利用などがあげられる。そのほかは、社会・経済状況の急激な変化に起因する。したがって、これらを鑑みた食育を実践する指導者は、これらの背景を熟知しなければならないと考える。換言すれば、単なる栄養学だけでは食育はできないということである。ちなみに、上述の高松で開催した食育プランナーのカリキュラムの概要を紹介する。
- 食育の背景
- 食と農業と経済学
- 食材の流通
- 食の安全性(食品衛生法)
- 社会生活、家庭生活、消費生活
- 食文化(食の歴史、世界の食)
- 地域の食文化
- 食品の品質(おいしさ)
- 食品材料各論 3回
- 食品栄養学
- 食事のマナー
- 学校給食 3回
- 調理実習 4回
- 総論、質疑応答、修了式
1回2時間、計21回、42時間、講師計10人。
(大塚薬報No.726より転載)